猫気質  ある日の明け方のこと。 「……う〜ん……重い……」  レオは息苦しさを感じて眼を覚ました。なぜか、お腹に圧迫感を感じる。 (なんだろう?)  とりあえず首だけ持ち上げて確認。…後、苦笑。 (またか……)  レオの視線先で、ねこまたまたが丸くなって眠っていた。レオに寄り添うように背中を丸め、頭と肩をレオのお腹に乗せて静かな寝 息を立てている。  レオの言葉から分かるとおり、ねこまたまたがこうやって部屋に入り込んでレオのお腹を枕にしたのは初めてではない。そう頻繁な ことではないが、なんだかんだでそろそろ二桁になる程度にはあることだ。 (あまり僕のお腹を枕にして欲しくないんだけどなぁ…)  内心で愚痴を零しつつも、つい頬が緩んでしまう。起されるのは困りものだが、レオは決して嫌がっていない。  ねこまたまたは、彼女の性質がそうさせるのか、べったりとレオに張り付いている日がたまにある。  特別何かするわけでもなく、ただレオに張り付いてしばらくしたら興味を無くしたようにふらっとどこかに行ってしまう。そしてま たしばらくしたら今回のようにレオの傍で丸くなって眠っているのだ。  一度レオは思い切って理由を尋ねてみたのだが、返って来たのは「レオ分が足りなくなったから」と言う意味不明な答えだけ。僕の 分ってなんだろう?と思いつつ、それでも甘えられて嫌な気はしないので深く考えないことにしていた。 「……ん……レオ?」  と、不意にねこまたまたが目を覚ました。レオが起きたことに気付いたらしい。 「おはよう、ねこまたまた」 「にぅ……」  レオの挨拶に、ねこまたまた甘えるようにレオのお腹に頭を擦り付けて応えた。 「あ、えっと……」  その反応に、思わずレオは顔を赤くして困ってしまう。甘えてくれるのは嬉しいが、とても恥ずかしい。  ねこまたまたはそんなレオの態度に構わず、相変わらずお腹に乗っかったまま顔だけレオの方に向けた。 「起きる?」 「え?」 「…起きないのか?」 「あ……あ、うん、そうだね、起きるよ」  ワンテンポ遅れてねこまたまたの質問の意味を理解し、慌てて上体を起こそうとするレオ。ねこまたまたはその動きにあわせてお腹 から退くと、膝の上に移動して動きを止めた。これでは上半身が自由になっただけで、状況はあまり変わっていない。 「え〜と…」  ねこまたまたを退かして起きていいものかどうか困惑するレオに、ねこまたまたは膝に縋るようにして見上げながら言った。 「…私はまだ起きたくないから」 「へ?」 「だから、もう少しこのままでいいか?」  そして、ダメか?と問い掛ける様に、レオをじっと見つめる。  その瞳に媚びの色は窺えない。純粋にそうしたいから確認を取っている、それだけのまっすぐな視線。だからなのか、返って抗い難 いものがあった。 「……分かった。いいよ」  仕方ないなと苦笑を浮かべ、ねこまたまたの髪に手を置いて頭を撫でる。ねこまたまたは「にぅ…」と一声鳴いて気持ち良さそうに 眼を細めた。レオはそのまま髪を梳く様に撫で付けながら、何とはなしにねこまたまたに話し掛ける。 「また足りなくなったの?」 「ああ」 「最近、よく来るよね」 「そう?」 「そうだよ。確か3日前にも来たし」 「…にぅ」  会話の流れで何となく言ったのだが、よくよく考えてみたらその通りだった。その3日前の前は一週間空いたし、その前は10日は 空いている。徐々にスパンが短くなっているのは確かだった。 (まぁ、ねこまたまたのことだから、気まぐれなんだろうけど)  レオがそんなことを考えて一人納得しているところに、ねこまたまたが不意に口を開いた。 「…最近、減るのが早いんだ」 「え?」 「……」  唐突だったので聞き返したが、返って来たのは沈黙だった。仕方が無いので、先程のねこまたまたの言葉を思い返してみる。 (減るのが早いって……あ)  鳴いて誤魔化されたと思っていたが、どうやら話は続いてたらしい。この減りが早いというのは、レオ分のことだろう。 (それはつまり…)  言葉の意味はよく分からないが、ねこまたまたはレオ分が足りなくなるとレオの元にやってくる。で、その減りが早くなったという ことは… 「そっか」  レオは嬉しさに顔を綻ばせた。 「だったら、またいつでも来てくれていいよ」  相変わらず頭を撫でながら、続ける。 「僕も、ねこまたまたと一緒にいるのは楽しいから」  レオの言葉に、ねこまたまたはたっぷり数秒間を空けて「ふんっ」と鼻を鳴らした。その様子が可笑しくて、レオは苦笑を漏らした。 (困った……)  ねこまたまたはレオの膝にもたれ、頭を撫でるレオの手の平の暖かさに心地よさを感じながらも、珍しく困惑していた。  彼女がレオに張り付くのは、長い間レオから離れていると何となく寂しくなるからだ。その寂しさはレオに張り付いていると満たさ れて解消するから、そしたらレオに用は無くなるので一人で遊びに行く。それだけの筈だった。  それなのに。 『だったら、またいつでも来てくれていいよ』  レオの言葉を聞いて。 『僕も、ねこまたまたと一緒にいるのは楽しいから』  レオの気持ちを聞いて。  レオと居て充足している筈なのに、どうにも落ち着かない気持ちになって。 (……ずっと、足りなくなってしまいそうだ)  fin 後書き リハビリに思いついた短い話をアップ。たまには只管ラブラブしたものも書こうかと。 …自分で書いてて何書いてるんだろとか思ってしまいましたが。ねこまたまたは既に条件クリアしてるのに。 あー、でもラブラブすぎるので、いつものSSと同じ世界観ではなくねこまたまたEND後の話ということで一つ(コラ 因みに、うちは猫飼ってるんですが、やつらは腹が減ると擦り寄ってきて、満腹になるとどっか行きやがります(笑) まぁ、それを『レオ分』に置き換えたというか……ま、そんなです。や、マジで何書いてるんでしょうね、自分。 山も谷もないSSですが、感想頂けると嬉しいです。ではでは。 PS 次こそ連載更新を…!