あの歌声をもう一度 3  言霊達と別れたレオは、自分の部屋に戻る道すがら明日のことを考えていた。 (決まっているのはスケッチとねこまたまたと言霊の3人……戦力的には問題ないと思うけど)  ねこまたまたはAランクのモンスターに匹敵する能力を持っているし、言霊も遠距離攻撃ができることを考慮すればAランクと渡り あえる力は十分にある。スケッチはこの二人と比べると劣ってしまうのだが、それでも相手がBランクなら互角以上に戦うことができ る。レオ自身にBランクに引けを取らない実力があることも考慮すれば、Bの下レベルのモンスターが相手ならば、戦力的には十分と 言っていいだろう。  だが…… (……多分、言霊は『戦えない』だろうな)  言霊は、こんな声ではもう歌えないと言っていた。言霊の攻撃方法は歌による音波攻撃なのだが、彼女の性格を考えればそれすらも 嫌がる可能性が高い。言霊を戦力として考えるのは危険だろう。いや、戦えない仲間を一人抱えていると考えるくらいで丁度いいのか もしれない。  これは事実上言霊に役立たずの烙印を押していることであり、気の優しいレオにしては随分と思い切った判断だが、このことにはち ゃんとした理由がある。  彼はバッチの館で暮らすようになってから、バトルノートから兵法やら用兵術等の指導を受けており、特に『中途半端に情で判断す るな』と厳しく指導されていた。情で接することは悪いことではない。だが、情での判断は相手のことを思うばかりに誤った判断を犯 してしまうこともある。そして誤った判断で危機に陥るのは、結局の所自分達なのである。仲間の能力に優劣をつけることと仲間を差 別することは、似ているようで全くの別物なのだ。  そんなこともあり、レオはこと危険を孕む事柄に至っては、極めて冷静に判断するように心がけていた。スケッチをはっきりと『二 人と比べて弱い』と割り切ることができるのも、この考えによるものだ。 (そう考えると、戦力的にも十分とは言い難いよね)  そして、今回のパーティに限っては、戦力以上に別の問題がある。 (……このメンバーで、ちゃんとパーティとして纏めることができるかな?)  言霊、ねこまたまた、スケッチの3人は、それぞれが個性的なレオの従魔の中でも特に厄介な顔ぶれと言える。  意地っ張りで素直じゃない言霊。  気分屋で単独行動を好むねこまたまた。  何を考えているのかイマイチ掴めない不思議系のスケッチ。 (……ダメだ……まるでできる気がしない……)  確かに、パーティとして纏めるには相当骨が折れそうな顔ぶれである。 (どうしようかな……)  レオはその場で足を止め、苦悩するように溜息を吐いて俯いた。そして、考え出した結論は、 「……そうだ。バトルノートの力を借りよう」  彼の従魔で、最も指揮能力に長けた者の力を借りることだった。    バトルノートの部屋はレオの部屋のすぐ隣にあり、バルキリー、雷太鼓の3人で使われている。因みに、彼女たちの部屋がレオの部 屋の隣にある理由は、何かあった時に最強の能力を持つ彼女らがすぐにレオの元に駆けつけられるようにと言う配慮からだ。  レオがその部屋を訪れた時は、丁度都合のいいことにバトルノート以外はどこかに出かけているようだった。 「おや?どうしたレオ。今日は指導の日では無かった筈だが。それとも、私に会いに来てくれたのか?」  座っていた椅子ごと振り返り、口元に微笑を浮かべてレオを迎えるバトルノート。 「あ、うん。バトルノートに頼みたいことがあって来たんだけど、いいかな?」 「ふふっ、私はレオの従魔だ。そう遠慮せずに、何でも言ってくれて構わないぞ」  バトルノートは可笑しそうな笑みを零して、向かいに椅子を用意して座るように勧めた。レオは勧められるままに腰を下ろす。 「そうだ。話は長くなるのか?」 「あ、うん。それなりに長くなると思う」 「そうか、それなら私がお茶をご馳走しよう。メイドさんには敵わないが、私の淹れたお茶もそれなりのものだぞ」  そう言ってレオの返事も待たずにお茶の準備をする。部屋においてある水差しの水をヤカンに注ぎ、携帯用コンロに乗せて火をつけ る。それから慣れた手つきで茶葉を取り出して適量ティーポット入れる。お湯が沸くのを待ちながら、バトルノートがレオに話しかけ た。 「最近、ハーブティーに嵌っていてな。好んで飲んでいるうちに、ついティーセットまで揃えてしまった」 「ああ、それでこの部屋にティーセットが一式揃ってるんだ。でも、いつのまに買ったの?」 「この前、レオと一緒に街に行ったことがあっただろう?その時に、レオの目を盗んでこっそりと、な」  悪戯っぽく笑うバトルノートに、レオは呆れた顔をする。 「別にこっそりしなくても、言ってくれれば買ってあげたのに」 「いや、それではレオに贔屓されることになってしまうだろう?我々従魔はそう言うことに比較的寛容だが、それでも無闇に揉め事の 種をまくこともあるまい」  それから、ニヤリと口元を歪めて面白そうにレオの目を覗き込む。 「それに、だからこそこうしてレオを驚かせることができた」 「う……」  眼が合って赤くなりながら俯くレオに、バトルノートは「ふふっ」と楽しげに笑みを漏らす。  一旦話が途切れたのでヤカンに視線を移すと、ちょうど口から蒸気を出し始めたところだった。 「丁度湯が沸いたようだな。レオ、もう少し待っていてくれ」  火を止めてヤカンのお湯をポットに注ぎ、蓋をして2分ほど蒸らす。それからポットを小さく回すように揺すり、ティーカップに注 いだ。 「どうぞ。熱いから気をつけてくれ」 「う、うん。頂きます」  勧められて、レオは畏まりながらティーカップを手にとって口に付けた。ゆっくりと傾けて一口啜る。 「……うん、美味しい。美味しいよ、バトルノート」  感心したように繰り返すレオ。紅茶の味もさることながら、飲んだ後にスゥーッと通り抜けるようなハーブのすっきりした香りがと ても心地よかった。 「そうか、喜んでもらえて何よりだ」  レオの賛辞に、バトルノートは本当に嬉しそうに微笑んだ。 「お茶の淹れ方はメイドさんに教えてもらったが、彼女は飲んで貰う相手を想う心が何よりも大事だと言っていた。技術が未熟な分、 想う心を込めたつもりだ」  そこまで言ってから、自分もティーカップに口をつける。 「…うん、これがレオのために淹れたお茶の味か」  そして満足そうに笑みを浮かべる。その様子に、レオは無性に気恥ずかしくなって顔を赤く染め、そのことを誤魔化すように慌てて 話を振った。 「あ、そ、それで、頼みたいことなんだけど。ええっと、何から話したら……」 「レオ、まずはもっとリラックスしてくれないか?そのためにお茶を淹れたのだから」  バトルノートは慌てるレオの姿を見て、やはり楽しそうに口元を歪めて微笑んだ。  ――30分後。  レオは言霊の歌声が変わったこと、それを直すために東の山へ『やま○こ草』を採りに行くことを簡単に説明した。 「…それに言霊、ねこまたまた、スケッチの3人を連れて行くと言う訳だな」  バトルノートはティーカップに残った最後の一口を飲み干してから確認した。 「うん。それでその3人を纏めるのは大変だから、バトルノートの力を貸して欲しいと思ったんだけど」 「そう言うことか……」  呟いて、しばし思考に耽るバトルノート。無論、レオの頼みを聞くことは吝かでないのだが…… (レオが私に望んでいるのは、レオに代わって仲間を纏めることか)  ところで、レオの従魔達の主人はあくまでレオであってバトルノートではない。そのため、バトルノートが仲間に指示を出す時は基 本的に『レオがバトルノートの指示に従うように指示した』と言う前提が必要になる。個人的にバトルノートの力を認めている者なら ば大して問題にはならないが、そうではない者は中々指示に従ってもらえないのが実状だ。  ねこまたまたは主人であるレオの指示すら聞かないことがあるくらいなので、簡単にバトルノートの指示を聞いてはくれないだろう。  言霊はその意地っ張りな性格が邪魔をしているため、又聞きになる自分の指示に素直に従ってくれるとは限らない。  スケッチは指示には従ってくれるだろうが、スケッチの性格はバトルノートをもってしても掴みきれていないため、適切な指示を出 すのに支障が出る恐れがある。  以上のことを考慮した結果、 (この件については、私はレオの望む活躍はできそうにないな)  と判断した。だが、これをそのまま素直に告げるのもどうかと思う。 (……そうだな)  バトルノートは瞬時に対応を決めて、コホンと咳払いして居住まいを正した。 「レオ、確かに私が力を貸せばパーティを纏めることもできるだろう」  先程の自分の判断を億尾にも出さずに平然そんなことを言う。 「だが、今回に限っては私が手を貸さないほうがレオのためになる」 「…それは、どうして?」  指導を受けている時のように神妙に聞き返すレオに、バトルノートも神妙そうに表情を引き締めて説明を始める。 「レオ、その3人のまとめ役として私に声を掛けたということは、今回は少人数で行くつもりなのだろう?」 「うん。大して強力なモンスターが出るところじゃないから、そのつもりだけど……それがどうかしたの?」 「パーティを纏めるのは、当然のことだが人数が多いほど困難になる。それを考えれば、今回の少人数編成はむしろいいチャンスだろ う」 「チャンス?」  不思議そうに聞き返すレオに、バトルノートは頷いて続ける。 「纏めるのが困難だと思う者をいつもよりも纏め安い状況下で指示できるのだから、困難な相手を指示する感覚を掴むには都合がいい と言うことだ」 「それは、そうかもしれないけど」 「ただ、その場合私が付いていってしまってはレオの判断に甘えが生じる恐れがある。それでは、折角のレオの成長の好機をふいにし てしまう。それが、私が手を貸さない方がいいと判断した理由だ」  バトルノートは少々厳しい口調できっぱりと言い切り、それから不意に表情を和らげた。 「それと……レオに用兵術を指導してきた者として言わせて貰うが、私はレオならば大丈夫だと信じている」 「バトルノート……うん、分かった。何とか頑張ってみるよ」  レオはバトルノートの言葉が嬉しかったのか、感動したように彼女の名前を呟くと、力いっぱい頷いた。 「ああ、期待しているぞ、レオ」  バトルノートは微笑を浮かべて応じながら、彼女の予想通りの展開に内心でほくそ笑んでいた。 「ありがとう、バトルノートに相談してよかったよ。それじゃあ、長居してゴメンね」 「なに、遠慮せずにいつでも来てくれ。歓迎するぞ」  レオは礼を述べて席を立ち、そのまま去っていこうとする。その背をバトルノートが「ああ」と思い出したように声を上げて呼び止 めた。 「レオ、明日は夜までには帰ってくる予定なのだろう?」 「うん、そのつもりだけど」  立ち止まって振り返りながら答えるレオ。 「それなら、明日の夜にでもレオの部屋に出向くから、そこであったことを話してくれないか?何かアドバイスができるかもしれない」 「あ、そうだね。そうしてもらえるなら嬉しいけど、いいの?」 「無論だ。レオのためなのだからな」  あまりに平然とそう言い切るため、レオの方が少し気恥ずかしくなってしまう。 「ええと、じゃあ僕はもう行くね」 「ああ、明日は頑張ってくれ、レオ」  今度こそ、レオは退室した。パタンとドアが閉じられて、レオの姿が見えなくなる。そこで、バトルノートは相好を崩した。心なし 浮かれているようにも見える。 (…ふふっ…さて、明日の夜が楽しみだ。今夜はしっかりと肌を磨いておくとしよう)  自分の手に余る事態を回避すべくレオに悪い心象を与えぬよう言葉巧みに同行を断り、かつそれを利用して明日の夜の約束まで取り 付けてしまう。  ちゃっかり者……もとい、深慮遠謀に長けたバトルノートであった。  なんだかんだでバトルノートに説得されてしまったレオだったが、問題が残っているのに気付いたのは彼女の部屋を出てドアを閉め た後の事だった。 (そう言えば、戦力的にも不足してるんだった…)  言霊を戦力外と考えるなら、実際に戦闘できるのはレオを含めても3人しかいない。それでも何とかならないでもないが、確実を期 すには最低もう一人仲間が欲しいところだ。バトルノートが居ればその問題も解決したのだが(彼女は頭脳労働派だが、戦闘能力もね こまたまたに匹敵するくらいに高い)、だからと言って今更またバトルノートに頼むのも間抜けだ。…それ以前にああ言ってしまった 以上、もう頼むことはできないが。 (せめてもう一人、頼れる仲間が欲しいところだけど……)  頼れる仲間……それである仲間の顔を連想してレオの表情が寂しげに曇った。 「やもりん……元気でやってるかな」  遠くを見るような眼でぽつりと呟く。  誤解の無いように断っておくが、レオは自分の従魔全員を信頼している。それでも、頼りになる者として最初に浮かぶのは、最強の 戦闘能力をもつバルキリーではなく、イカパラに赴いた当初から力を貸し続けてくれたバニラ、クスシでもなく、やもりんだった。  レオが自分の従魔の中で一番最初に頼りにしたのは彼女だった。従魔になったのはやもりんよりもきゃんきゃんとメイドさんの方が 先だが、その二人はやもりんとは頼りになる方向性が違う。少なくとも、戦闘において一番最初に頼りにしたのはやもりんだった。そ して、やもりん自身非常に向上心が強かったこともあり、一緒にダンジョン探索に行ったり訓練したりすることが多く、イカパラでの 日々でレオが最も長く共に過ごしたのはやもりんである。そう考えれば、やもりんが最初に思い浮かぶのは当然のことと言える。  だが、やもりんは現在ここには居ない。バッチの館に住むようになってからしばらくした頃に「自分の可能性を知りたい」と言って 旅に出てしまったのだ。当然、レオはやもりんがいつか自分の元に帰ってくる事を信じて疑ってないが、それでも時折ふとした弾みに 思い出しては切なくなってしまう。  そして、居なくなったのはやもりんだけではない。いや、やもりんとの間には従魔としての絆が残っているが、それすら断ち切って 出て行ってしまった者がいる。 (サルファも……どうしてるんだろう?)  一ヶ月ほど前、サルファはレオの『従魔を解約したい者は言って欲しい』の問いに、解約を希望して出て行ってしまった。  別れ際、いつでも遊びに来てと言うレオにサルファは気が向いたらと答えてくれたが、従魔で無くなったサルファが果たして遊びに 来てくれるだろうか?  レオはあの時の自分の決断を後悔していない。だが、それでも、寂しく思ってしまうのはどうしようもない。 「って、いけないいけない」  ぶんぶんと頭を振って浮かんできた暗い思考を追い払うと、漸く部屋の前で立ちっぱなしだと言うことに気付いてその場を動いた。 直ぐ隣に自分の部屋があるのだが、何となく戻る気にならなかったのでそのまま通り過ぎて目的も決めずに長い廊下を歩く。 (とにかく、もう一人くらいは必要だよね。誰に頼もう…)  改めて頭を悩ませるレオ。ちょっとした戦力の補完になれば十分なので誰でも構わないのだが、だからこそ選択肢が多すぎて逆に困 ってしまう。 (ちょーちんは手伝ってくれるって言ってたけど、倉庫掃除があるから止めた方がいいよね。メイドさんが前々から計画してたことを 邪魔しちゃ悪いし……)  そんなことを考えながら廊下を歩く。だからだろう、自分の進行方向に立っている者が居ることにに気付かないのは。  レオはそのまままっすぐ歩き続け、ドンッとその者にぶつかってしまった。何やら柔らかいものに顔面に当たる。 「うわっ」  相手はレオに気付いていたから待ち構えることができたが、まったく気付いていなかったレオの方はぶつかった反動で転びそうにな ってしまう。  が、相手は素早い動きでレオの肩を掴み、転ばないように引き止めた。 「大丈夫か、レオ?」  そして、頭上から声を掛ける。 「え?バ、バルキリー?…あっ、ご、ごめん!」  レオはそこで自分が前方不注意でバルキリーにぶつかったことに気付いて、慌てたように後ずさって顔を真っ赤にして頭を下げた。 顔が真っ赤な理由は、ぶつかってしまったことが恥ずかしかったこともあるのだが、他にも理由はある。バルキリーはレオよりも背が 高く、レオの目線はバルキリーの首よりちょっと上くらいの高さになる。それで、考え事のために俯いていた自分がバルキリーにぶつ かったとしたら… (う……)  ぶつかった時の柔らかい感触を思い出して、レオはさらに顔を紅潮させた。 「私なら構わないが……何か考え事でもしていたのか?」  バルキリーはそんなレオの様子に気付かずに、普段どおりの真面目な様子で訊ねてくる。 「あ、うん、そうなんだけど……あ、それと、ありがとう。転ばないように支えてくれたんだよね」 「い、いや、別に大したことではない」  レオに笑顔で礼を言われて、今度はバルキリーが顔を赤くしてしどろもどろになる。それを誤魔化すように咳払いして、真面目な顔 で続けた。 「そ、それよりも、考え事しながら歩くのは別に構わないが、それで注意を疎かにするのは危険だ。気をつけたほうがいい」 「そうだね、ごめん。これからはもっと気をつけるよ」 「いや、別に責めているのではないから、そんなに気を張る必要はないが…」  レオに素直に謝られて、バルキリーはまたうろたえてしまう。何とも不器用な遣り取りである。まぁ、バルキリーの方もレオが前方 不注意だったことに気付いていたのにも関わらず、声を掛けずに立ち止まって待ち構えていたのだからあまり強くは言えまい。このま ま気付かずにぶつかってきたら支えてあげようと、極自然にそんな考えをしていた自分が今になって急に恥ずかしくなる。 「それで、一体何を考えていたんだ?」  だから、バルキリーはまた誤魔化すように話を変えた。 「あ、うん。それなんだけど……」  答えかけたその時、レオの脳裏にふと閃くものがあった。 (そうだ。バルキリーに頼んでみたらどうだろう?)  Bランクの下程度のモンスターを相手にするのに、Sランクの能力をもつバルキリーを連れて行くのはもったいない気がしないでも ないが、戦力はありすぎて困ると言うことはない。丁度誰に頼もうか考えていた時にぶつかったのも何かの縁だろう。 (うん、そうしよう)  そう判断したレオは、改めてバルキリーに話し掛けた。 「バルキリー、頼みたいことがあるんだけど、いいかな?」 「私にか?別に構わないが」 「うん、ええとね……」  レオは簡単に事情を説明した。 「…そう言うことか。私なら大丈夫だ」  バルキリーは実にあっさりと快諾した。特別な用事がある訳でもないし、そもそも主であるレオの頼みなのだから、断る理由も無い。 「良かった。ありがとう、バルキリー」  レオはちょっと大げさなくらい喜んで、笑顔で礼を言った。余程嬉しかったのか、飛び切りの輝かんばかりの笑顔である。その笑顔 に、バルキリーの顔が一瞬でぼっと火がついたように真っ赤に染まった。 「う……あ、ああ。れ、礼を言われるほどのことではない。は、話は済んだか?なら、私はもう行く。ではな」  妙にうろたえた様子で早口で答え、真っ赤に染まった顔を隠すように踵を返して足早に去っていってしまう。レオは呆気にとられた ように見送った後、はっと気が付いて声をかけた。 「明日、8時に館の前に集合だから!」 「わ、分かった」  一度足を止めて、焦ったように振り向いた答えてから、バルキリーはさっさと姿を消してしまった。レオは不思議そうにそれを見送 った後、ぽつりと呟いた。 「……あんなに慌ててどうしたんだろう?もしかして急いでたのかな?だったら、悪いことしちゃったな」  やはりレオはどこかズレているようだった。  尚、バルキリーはあの後頭を冷やすために庭に出ていた。 「……あれくらいのことであんなにも取り乱してしまうとは……まだまだ未熟だ。しかし、レオがいきなりあんな無防備な笑顔を向け なければ……ああ、いや、レオには関係ないのだから、やはり悪いのは私だ。だが、それでも……」  小声で呟きながら、何やら随分と葛藤している。  Sランクの能力をもっていても、レオにはとことん弱いバルキリーであった。  続く 後書き 言霊出番ねぇっ!? ども、KINTAです。何やら脱線しすぎている気がしないでもないですが、あの歌声をもう一度の続きをアップしました。 今回はバトルノートに振られて(?)バルキリーが参戦決定する話。次回から『やま○こ草』を採りに行く話になります。 いや、この流れは初めから考えてたことなんですけどね。話引き伸ばすためにかなり余計なことを書いてしまったような気もするが、 まぁ、大丈夫だ。多分。 ええと、ちらっとどこかで書いてると思うけど、この作中ではサルファはまだ帰ってきてません。もう帰ってきた話を書いてるんで今 更何言ってやがるって感じですが、レオの方はまさかまたサルファが従魔になるために帰ってくるなんて思ってもいなかったでしょう。 つか、だったら従魔やめるなんて言い出すとは思わないだろうし。 従魔の皆が確信していたのは、同じ従魔だからこそレオの従魔でいることの幸せが分かっていたということです。 あー、レオがちっとやもりん贔屓気味なのは、ぶっちゃけ自分の趣味ッス。実際自分贔屓してました。このシリーズ(?)では初っ端 に旅に出ちゃってるんであんまし出番は無いですが。や、可愛い子には旅させろと言うし(ぉ 次回も早い内に……なんとかしたいなぁ……では。