ネーミングセンス  あのイカパラの戦いを終えて、早数ヵ月―――  無事バッチの館へと辿り着いたレオ達は、色々あったものの平和な日々を過ごしていた。  まあ、その色々というのは…  バッチがレオの連れているレアモンスターとモンスター化したエリナを見て、我を忘れて向かってきたために激しい戦闘になったり だとか…  その後でバッチが「レオには負けてられんからな」とか言ってレアモンスター探しの旅に旅立ってしまったとか…  でもって、その留守をレオが預かることになったとか…  まあ、つまるところ、繰り返しになるが、レオたち(レオの従魔の女の子モンスター+バッチに留守を任せられた女の子モンスター (メイドさんのリサとか))でバッチの館で平和に暮らしている。  これは、そんな平和な日々の、ある一日のお話。    その日、レオはバッチの館にある無駄に広い書斎で魔法に関しての勉強をしていた。  レオ自身には魔法の才能はまったく、これっぽっちもない。が、女の子モンスター使いとして、魔法使い系の女の子モンスターを従 魔として従えている以上は魔法の知識も無いと色々と問題があるのだ。  それで、こうしてサワーとまじしゃんに手伝いをお願いして魔法の勉強をしているのだが… 「レオ、これも読んでおくといいわよ」 「私からはこれがオススメ。ちゃんと読んでね」 「あ…ありがとう、まじしゃん、サワー」  読んでいる魔法書から一度目を放し、自分の右隣に積まれている本の山を高くするサワーとまじしゃんに少し引き攣った笑顔で礼を 言うレオ。 (うう……まさか、これ、全部読まなきゃいけないの?)  心ではこっそり泣き言を言っているが。  彼の両脇には本が詰まれており、左には5冊程度、そして先程まじしゃんとサワーによって高くされた右側の本の山には10冊以上 の本が積まれている。無論、全部魔法関係の書物だ。レオは朝から魔法書を読んでいて、左側に積んである分しか読み終えていない。 残り10冊以上…泣きたくなるのも無理は無い。 「あと、これとこれもね」  ズン←本を積む音。 「あ、この魔法書もすっごく面白いんだよ」  ズンズン←更に本を積む音。 「ま、まだあるんだ……」  更に高くなる本の山に、渇いた笑いを漏らすレオ。20冊の大台も近い。が、そんなレオに対し、まじしゃんとサワーの二人は、実 にあっさりと告げた。 「まだまだこんなものじゃ無いわよ。最低でも30冊は読んでもらわないとね」 「ええっ!?そんなに!?」 「レオくん、魔法って大変なのよ。私だって軽く50冊は読んでるんだから」  悲鳴を上げるレオに、サワーが笑顔で追い討ちを掛ける。サワーは突然変異の力をもっているが、それはそれで魔法書を読むのは好 きだったらしい。魔法使い系のモンスターだったら、魔法書を読むくらい至極当然のことなのだろう。 「いや、でも、僕は別に本格的に魔法使いになりたいって訳じゃないし…」 「それでもよ。仮にもこの私のマスターなんだから、このくらいの魔法書くらい、読破しておいてもらわないと困るのよ」 「そうそう。だからこれもね♪」 「…うう」  さらに高くなった本の山を見て、がっくりとうなだれるレオ。それを見てサワーとまじしゃんが小さく微笑む。いや、 (ああんっ!凹んでるレオ君って、超可愛いー!やっぱりレオ君は私の王子様よねっ♪) (…やっぱ、ちょい間違ごうとると思うで、それ)  サワーは心の中で悶えており、にゃごにゃご先生がそれに突っ込みを入れているが。  と、その時、コンコンとドアをノックする音が響いた。 「あ、どうぞ」  レオが応えると、「失礼します」と断ってワゴンを引いたメイドさんとおかし女(ちょっと前に新しく従魔になった。因みにまだノ ータッチ:笑)の二人が入ってきた。メイドさんの引いているワゴンには、焼きたてのクッキーとティーセットが積まれている。 「ご主人様、3時のオヤツの時間です」 「わたしね、レオさんのためにお菓子作ってきたの。食べて食べて♪」 「ありがとう、メイドさん、おかし女」  二人に微笑み掛けるレオ。おかし女はレオの言葉に嬉しそうにはにかみ、メイドさんは静かに笑みを湛えて書斎にあるテーブルにお 茶の準備をする。 「まじしゃん、サワー。ちょっと一息入れようよ」 「もう?…まったく、仕方無いわね」  渋々と…と装いながら、視線でちらちらとクッキーを見ているまじしゃんが言い、 「うんっ、いいよー。美味しそうなクッキー」  素直に関心を示すサワー。サワーは自分の欲望(食い気とか色気とか)に実に忠実なのだ。  いそいそとテーブルに座る二人を微笑んで眺めてから、控えているメイドさんとおかし女に声を掛ける。 「メイドさんとおかし女も食べていくよね?」 「…ご主人様がよろしければ」  紅茶の準備をしながら微笑むメイドさん。しかし、おかし女は残念そうに顔を曇らせた。 「あのぅ…ごめんなさい。わたし、皆にもお菓子配ってあげたいから…」  おかし女にとって、自分の作ったおかしを一人でも多くの人(?)に食べてもらうのは、彼女の存在意義と言うか本能みたいなもの だ。レオの誘いは嬉しかったのだが、本能には逆らえなかったらしい。 「そうなんだ。気にしないで」  レオは少し残念そうな顔をしてから、ふと思いついてクッキーに手を伸ばした。そのまま一つ摘み上げて口に入れる。そしてよく味 わうように食べてから、おかし女に極上の笑みを向けた。 「とても美味しかったよ。こんな美味しいもの独り占めしたら悪いよね。僕からもお願いするから、皆にも配ってあげて」  その言葉に、おかし女は一瞬レオに見惚れて、それからぼっと顔を真っ赤にした。 「はははは、はいっ!ああああ、ありがとうございますです!そ、それじゃあ、わわ、わたしはこれでー!」  口早に奇妙な礼を言って、なぜか恥ずかしそうに部屋を出て行ってしまう。そして少し離れたところから「ぅきゃあっ!」と言う悲 鳴と、何かにぶつかる音が聞こえてきた。 「…どうして、そんなに慌てるんだろう?」  首を傾げるレオに、メイドさんとサワーとまじしゃんの三人はそろって微妙な視線を向けてそろって溜息を吐いた。  おかし女がレオのお手つきになるのもそう遠い未来では無さそうだ。  それはさておき、レオ、メイドさん、サワー、まじしゃんの4人は書斎のテーブルを囲んで雑談に興じていた。  適当に魔法関係の話題で盛り上がった後、サワーがふと思い出したようにレオに話を振った。 「あ、そうだ。レオくん、ちょっといい?」 「ん、何?サワー」  サワーの言葉に責めるような響きが混じっていたため、少し不審に思いながらも素直に頷くレオ。 「あの、おかし女のことなんだけど…」 「え?彼女がどうかしたの?」  予想外の名前が出て、少し心配になる。おかし女は…別に悪い子ではないのだが、ドジっ娘属性持ちのためにたまに騒ぎを起こした りしているのだ。どのくらいドジっ娘かと言うと、生クリームを泡立てている時になぜか手を滑らした上に転んで全身を生クリーム塗 れにしてしまうというベタベタなイベントを起こしてしまうくらいにドジっ娘なのだ(ついでにその現場に出くわしたレオが、白い生 クリーム塗れのおかし女を見ていけない連想をしたのもお約束だろう)。  だから、また何か失敗でもしたのかと不安になったのだが…サワーの言葉はレオの懸念とはまったく違うものだった。 「あのね、おかし女って名前はちょっと可哀想かなって思うの」 「せやなー、いくら種族名っても、あんまりや思うで」 「ああ、それは私も少し思った」  にゃごにゃご先生とまじしゃんもそれに同意する。レオは何のことだが分からずきょとんとしている。別に種族名で呼ぶのはおかし 女だけではなく、彼は従魔全を種族名で呼んでいる。何を今更…と思うのも当然だろう。 「ええと……何のこと?」 「ぼん……自分が『何たら男』と呼ばれとるとこ、想像してみぃ」  にゃごにゃご先生に言われたとおり、想像してみる。 (ええと、僕の場合だと…『女の子モンスター使い男』になるのかな?女と男の文字が両方ついててなんか変な感じだけど…) 「…それなりにかっこいい呼ばれ方だと思うよ?」  直後、沈黙が落ちた。 「え?え?何で皆押し黙るの?」  レオは不思議そうに皆を見るも、視線を向けると目をそらされてしまった。 「ええと…メイドさん、どうして?」  困ったように隣に座っているメイドさんに返事を求める。と、メイドさんはレオよりもさらに困惑顔をした。 「ご主人様…その…コメントを求められるのは、あまりに酷だと思うのですが…」 「…そうなの?」  メイドさんの言葉も十分酷だと思うが、レオは訳が分からない様子で首をかしげた。 「ま、まあそんなことはどうでもいいわ。それより、レオって自分の従魔に名前を付けなかったわよね?別に不満がある訳じゃないけ ど、何か理由があるの?」  自分に振られてはたまったものではないと思ったのか、まじしゃんが咳払いして強引に話を変える。ただ、まじしゃん疑問はもっと もだった。  普通の魔物使いだったら従魔にしたモンスターにはちゃんと名前をつける。理由は単純で、愛着の問題ももちろんあるのだが、それ 以前に自分の従魔と同じ種族のモンスターと遭遇した時に困るからだ。イカパラでは、女の子モンスターはイカ男爵が厳選した各種一 人ずつしか居なかったから問題は無かったのだが。 「あ、うん。ええと、僕が勝手に名前を付けたら、なんか悪い気がして…」 「む〜、そんなこと全然ないのに。レオくんに名づけてもらいたかったな〜」 「あ、ゴ、ゴメン…」  先ほどのレオの言葉を聞いていたにも関わらず頬を膨らませてそんな発言をするサワーに、レオは頭を下げる。それから「それに」 と言って付け加えた。 「僕はどうもネーミングセンスが無いみたいで、エリナに『従魔になるモンスターが可哀想だから、自分で名前を付けるのは止めてお きなさい』って言われたこともあってさ」  その言葉は、先ほどのレオの発言を思い出せば十分に納得できた。  尚、余談だが、レオが自分の従魔に名前をつけなかったのには他にも理由がある。イカ男爵を倒した後で、皆と別れることも考慮 していたからだ。イカ男爵から逃れるために従魔になったのだから、自分がいつまでも縛り付けておくのもおかしいと考えていたのだ。 そのことでちょっとした事件もあったのだが、今は割愛する。 「ふぅん…でも、そんなこと言われるなんて、何かあったの?」  まじしゃんの疑問に、レオは「うん」と一拍置いてから答える。 「実は、以前近くの森で捨てられてた猫を拾ってきたことがあったんだ。綺麗な白猫だったんだけど」 「へー、にゃごにゃご先生とは正反対ね」 「ふんっ、わしをそんじょそこらの猫と一緒やと思ったらあかんで。やったろうやないか」  サワーの言葉に触発されたかのように、なぜかシャドウボクシングを始めるにゃごにゃご先生。短い手でワンツーしている姿はそれ なりに可愛い。 「あ、でも、もう随分前に死んじゃったから、居ないんだけどね」  水を差すようで悪いけど、と断りながら寂しげに微笑むレオ。昔飼っていた白猫の事を思い出しているのだろうか。 「あー、にゃごにゃご先生ったら、ひどーい!」 「本当、デリカシーが無いわね」 「確かに、もう少し気を使うべきだと思います」 「わ、わし一人悪者なん!?」  なぜか集中的に責められて、にゃごにゃご先生が抗議の声を上げる。その様子にレオは寂しげだった顔を苦笑に変えて、まあまあと 仲介した。 「もう随分前のことだし、気にしてないからいいよ」 「ううっ…ぼんだけがわしの味方や…」 「まあ、それは置いといて。レオくん続きお願い」 「置いとかれた!?」  先程から落ち込んだり気を取り直したりと忙しいにゃごにゃご先生をサワーが文字どおり脇に置いて、改めてレオを促す。 「あ、うん。それで、バッチ師匠が飼うことを許してくれたから、名前を付けることになったんだけど…」 「うんうん」 「僕の付けた名前がエリナには気に入らなかったみたいで。その時にさっきの台詞を言われて、結局エリナに名前を付けてもらったん だ」  その時の遣り取りを思い出して、微妙に納得いかない顔をするレオ。自分ではいい名前だと思っていたのだ。 「で、レオはなんて名前を付けようとしたの?」 「銀星号」  あまりにアッパーの効いた名前に、3人ともやっぱり微妙な顔をする。その様子に気付きかずに、レオは「はぁ…」と溜息をついた。 「可愛い名前だと思ったんだけどな…」 「か、可愛いの?」  サワーがつい突っ込んでしまう。格好いい、ならまだ救いがあったのだが。 「うん。……変かな?」  レオの言葉に、また沈黙が落ちる。そりゃ、自分の主に向かって「ヘンだ」とは言えない。結局、サワーとまじしゃんが答えあぐね たのを察したメイドさんが、得意の気遣いを発揮してフォローに回った。 「そ、そうですね。少々変わってはおりますが、個性的でいいと思います」  個性的と言う言葉が果たして褒めているのかどうかはかなり微妙だが、レオは安心したように「そうだよね」と微笑んだ。 「それで、結局なんて名前になったの?」 「うん、エリナがつけた『シロ』になったんだ。…僕は安直過ぎるって反対したんだけど、エリナは『こう言うのはシンプルイズベス トですわ!それに、レオの考えた名前よりも百倍マシです!』って」  まじしゃんに訊かれて、ご丁寧にエリナの口真似までして答えるレオ。長い付き合いのせいか結構似ていた。そんなことはどうでも いいが。 「そ、そうなんだ?ええと、エリナさんももうちょっと気を使えばいいのに、酷いよね」 「ま、まあでも、エリナの言うことももっともよ。あんまり凝った名前だとペットが覚えられないかもしれないし」 「その通りですね。ペットはあまり複雑な名前だと覚えられないようなことを耳にしたことがありますので」  どちらにも角が立たないように何とかフォローする3人。 「そうだよね。まぁ、そのことは気にしてないからいいけど」  レオはそのことを示すように微笑んで答えて、それからふと思いついたように呟いた。 「でも、バッチ師匠も言ってたけど、やっぱり自分の従魔には名前を付けた方がいいよね。これからはちゃんと考えてみようかな?」  その言葉に、3人ともさっと顔色を変えた。 「え、ええとね、レオが最初に言っていた通り、勝手に名前を付けるのってあまりよくないと思うわ」 「そ、そうですね。ご主人様から名前を頂けること自体は光栄なことですが、大切なことは呼び名ではありませんから」 「うんうん、私はレオくんにサワーって呼んでもらうの好きだし他の皆もきっとそうだと思うよ」 「そうよ。それにどっちかって言うと、勝手に名前をつけるってのはある意味傲慢なことよね。むしろこちらの立場を尊重して従来通 り呼んでくれる方が好感が持てるわよ」 「そうですね。メイドさんと呼ばれた時、ご主人様がこちらを立てて頂いていることが分かって嬉しかったです」 「だから、レオくんは今までどおりのいいの!分かった?」  矢継ぎ早に説得され、レオは気圧されたように「う、うん」と頷いてしまう。そのことに、3人はほっと胸を撫で下ろす。レオには 悪いが、そのネーミングセンスを知った以上、レオに名前を付けさせてはこれから従魔になる娘が可哀想だし、そんな名前で呼ぶこと になりたくない。 「あ、結構話し込んじゃったわね。さ、レオ。勉強を再開するわよ」 「え?もう?」 「ほら、レオくん頑張って」 「では、お片付けしますね」  休憩時間を切り上げて、慌しく動き出すレオ達。  にゃごにゃご先生は、先程置いておかれた場所からその様子を眺めていた。自分が忘れられていることをちょっぴり切なく思いつつ、 小声で呟く。 「ぼんの鈍さは、ある意味最強やなー…」  そして、色々なことを色々な感じで悟ったような、微妙に重たい溜息を吐いた。  今後、レオの前で名前の話題がタブーになったのは言うまでも無い。  後書き  オリジナル設定炸裂しまくりだが、大丈夫。俺は気にしない。  ども、KINTAです。GALZOOSS第二段です。こんな感じで短編連作を続けたいなと思ってます。    じゃ、ちょっとレオ達の現状を補足。  レオの現在の従魔はハズレ女を除くGALZOOに出てきた女の子モンスター全部(全員一度は転生済み、だからエリナ救出が間に 合わなかった)と魔物エリナ。エリナに付いて来た中華てんてんも従魔になってます。  新しい従魔は、おかし女、金魚使い、出目金魚使いの3人を考えております。後はまあ適当に増やしたりとか…  居残りくらっているバッチの従魔は…ほとんど考えてません。メイドさんのリサだけ確定。あと、最強魔女とか考えてます。  尚、現在レオ達はバッチの館で生活してますが、いつまでもそこで暮らすわけにはいかないので、少し離れた平地に自分達の館を建 設中です。設計はバトルノートで、バルキリーを筆頭に従魔の女の子モンスターで手分けして建築してます。女の子モンスター使いな ら誰もが憧れるバルキリーに土木作業やらせるのはレオくらいなものでしょう。  因みにレオの従魔の女の子モンスターも、一部現在バッチの館で暮らしていない者も居ます。以下にその女の子モンスターと状況を 列記。  やもりん…武者修行の旅に出ている。  髪長姫…無事再会できた旦那のうっぴーと二人暮し。従魔の契約自体は切れておらず、バッチの館のすぐ近所で生活している。  サルファ…とある事情により、レオの元から離れている(ぉ  生活手段は基本的に自給自足。畑を耕しており、きゃんきゃんが喜んでにんじんを育ててます(無論、他の作物もありますが)。他 にも近所の森で狩をしたり(山のサチとか)、ちょっと離れた所にある川や海で釣りをしたり(バニラとか)してます。  お金はクスシの薬を売ったり、クエスト依頼を受けたりして稼いでいます。  まあこんなところ。無駄に考えてるけど、全部使うかどうかは微妙っぽい。  次回はサルファかな?それ以前に書かないといけないSSがたくさんあるが…  あ、ハズレ女は無かったことにさせて下さい(笑